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人身事故の時間の歪み

 鉄道の人身事故の現場に、たまたま居合わせたことがある。当時の私が利用していた最寄り駅での出来事であった。そこに停車しない急行に、人が巻き込まれたため、電車がストップした。

 改札口を通るとき、ホームから駆け下りてきた六〇代くらいの女性が駅員に「上で、人が巻き込まれた」と話しているのを耳にした瞬間、せいぜいのところ閉まるドアに挟まれた程度の事故だろうと思ったのだが、本当に人身事故であった。事故が起きたということの現実を本当のこととして、自分にとっての現実感として受けとめるのにしばらく時間がかかった。
 私はそのとき用事があって電車に乗りたかったのだが、しばらく運行を見合わせるということで、仕方なくタクシーをつかまえようとしたもののタクシー乗り場には行列ができていて、別の駅まで自転車で行ってそこでタクシーをつかまえようとしてもやはり乗り場は長蛇の列で、また別の駅まで行ったら今度は駅のホームの周囲に人だかりができていて多くの人が携帯電話を片手に口々に何かを話しているのを目にした。
 駅だけでなく、街が騒然としていた。公共的な空間で決行される自殺行為は、多くの人の生活を混乱させ、街そのものをも混乱させるというだけでない。私はどことなく、時間そのものが止まっているようにも感じた。